「夫」という漢字、漢文で読み方がたくさんあってどう読めばよいのかわからない!」とお困りではありませんか?
漢文の中には、読み方が複数ある漢字があります。
「夫」という漢字も読み方がいくつかあり、どの読み方をすれば良いのかすぐに判断がつかないものですよね。
書き下し文でも、「夫」を漢字のままにするときとひらがなに直すときがあり、苦手意識を持っている人も多いのではないでしょうか。
当記事では、「夫」という漢字の読み方と書き下し文にするときのポイントをお伝えいたします。
読み方は、次の3つです。
- 「夫れ(それ)」
- 「夫(か・かな)」
- 「夫(かの)」
読み方を判断するとき、確認するポイントは次の3つです。
- 送り仮名は何か
- 文のどこにあるか
- 意味は何か
書き下し文にするときのポイントは、自立語か付属語かを見分けることです。
当記事を読むことで、漢文での「夫」という漢字の読み方がわかるようになり、書き下し文も迷わず書けるようになることでしょう。
「ライバルに差をつけたい!」という人は、ぜひお読みください。
「夫」漢文での読み方は「夫れ(それ)」「夫(か・かな)」「夫の(かの)」
「夫」という漢字、漢文での主な読み方は知っていても、違う読み方が出てくると、「一体読み方はいくつあるの?」と思ってしまいますよね。
「夫」という漢字の読み方は、次の3つです。
- 「夫れ(それ)」
- 「夫(か・かな)」
- 「夫(かの)」
「夫れ」読み方は「それ」
「夫」に「れ」という送り仮名がついているとき、「それ」と読みます。
「夫」読み方は「か・かな」
「夫」に送り仮名が何もない場合、「か」または「かな」と読みます。
「か」と読んでも「かな」と読んでもどちらでも構いません。
「夫の」読み方は「かの」
「夫」に「の」という送り仮名がついているとき、「かの」と読みます。
「夫」漢文での読み方はどこにあるかで決まる
3つとはいえ、読み方が複数あるとすぐには判断できませんよね。
読み方を教わっても、実際に自分で問題を解いてみると確信を持てないものです。
「夫」という漢字が文のどこにあるのかということからも、読み方を判断できます。
「それ」「か・かな」「かの」は、文法用語でそれぞれ接続詞、終助詞、連体詞といい、文のどこにあるか決まっているのです。
「それ」「か・かな」「かの」と読むときの文中の場所は次の通りです。
- 「それ」と読むとき、文の初めにある
- 「か・かな」と読むとき、文の終わりにある
- 「かの」と読むとき、名詞の前にある
文の初めにあれば「それ」
「夫」という漢字が文の初めにある場合「それ」と読みます。
本文(書き下し文):
夫れ天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過各なり。
読み:
それてんちはばんぶつのげきりょにして、こういんはひゃくだいのかかくなり。
通釈:
そもそも天地は万物を宿す旅館のようなものであり、(その中に来るものあり去るものあり)月日は永久に往いて帰らぬ旅人のようなものだ(いつまでも留ることはない)。
「夫れ」とは、接続詞です。
接続詞は文の初めにあり、文と文をつなぐ役割があります。
「れ」という送り仮名があり、文の初めにあれば、間違いなく「それ」と読むことができますね。
文の終わりにあれば「か・かな」
文の終わりに「夫」一文字のとき、「か・かな」と読みます。
逝く者は斯くの如きか、昼夜を舎かず
『論語』子罕にある、次のことばが出典です。
子在川上曰、「逝者如斯夫。不舎昼夜」
子川上(せんじょう)に在りて曰く、
「逝(ゆ)く者は斯(か)くの如きか。昼夜を舎(お)かず」と。
[要旨]
一刻も休まず流れる川の水を見て、孔子が時の過ぎゆくのを嘆いた。
[口語訳]
孔子が川のほとりで、(流れゆく水を前にして)言った、
「過ぎ去ってゆくものは、(みな)この(川の流れの)ようなものなのだなあ。
昼も夜も(少しも)休まない(で流れさってゆくことよ)」と。
福岡攻玉木鶏クラブより引用
「か・かな」は終助詞です。
終助詞は、名詞や動詞など様々な品詞の後に置かれ、希望や詠嘆など、色々な気持ちを添える役割があります。
終助詞が使われるのは文の終わりです。
したがって、送り仮名がなく、文の終わりにある「夫」は「か・かな」と読めばよいことがわかりますね。
名詞の前にあれば「かの」
名詞の前に「夫の」とあれば、「かの」と読みます。
長沮曰ハク、「夫ノ執レル輿ヲ者ハ為レスト誰ト。」
長沮曰ハク、「夫ノ執レル輿ヲ者ハ為レスト誰ト。」
長ちょう沮そ曰いはく、「夫かの輿よを執とる者ものは誰たれと為なす。」と。
長沮が言うことには、「あの車の手綱を取っている人は誰か。」と。
フロンティア古典教室より引用
「かの」は連体詞といい、名詞の前にあり、すぐ後に続く名詞を指し示す役割があります。
「夫」という漢字のあとに送り仮名「の」が続き、名詞の前にあれば、迷うことなく「かの」と読むことができますね。
「夫」漢文での意味は「そもそも」「~だなあ」「あの」
文のどこにあるかということ以外に、もう1つ決め手となる判断基準があればさらに安心ですよね。
読み方・文のどこにあるかに加え、意味もセットで覚えておくことで、確実に読み方を迷わずに判断できます。
「夫」という漢字の読み方ごとの意味は、次の通りです。
- 「それ」と読むときは「そもそも」
- 「か・かな」と読むときは「~だなあ」
- 「かの」と読むときは「あの」
「それ」の意味は「そもそも」で文を強調する
「夫れ」は、後に続く文で述べることに注目してもらいたいときに使われます。
意味は「そもそも」「いったい」です。
本文(書き下し文):
夫れ応を合わす者は声同じく、争いを交ふる者は力敵す。
読み:
それおうをあわすものはこえおなじく、あらそいをまじうるものはちからてきす。
通釈:
そもそも、互いに呼応せんとする者の声量は同等であり、相戦おうとする者の力量は匹敵している。
例文から下記3点が確認できました。
- 送り仮名が「れ」
- 文の初めにある
- 訳が「そもそも」
したがって、「それ」と読むことが明確ですね。
「か・かな」の意味は「~だなあ」で感情をより強く表す
「夫」は、感情をより強く伝えたいときに使われます。
「〜だなあ」「~なあ」などの意味で覚えておきましょう。
※下記小文字のカタカナは送り仮名、小文字のひらがなは送り仮名です。
嗚呼哀シキ夫かな。
読 ああ哀しきかな
意 【ああ、悲しいなあ。】
Tryitより引用
例文は、下記3点の条件に当てはまることがわかります。
- 送り仮名が無い
- 文の終わりにある
- 訳が「~だなあ」
したがって、「か・かな」と読むことができますね。
「かの」の意味は「あの」ですぐ後の名詞を指す
「夫の」は、すぐ後にくる名詞を指し示したいときに使われます。
意味は、「あの」です。
本文(書き下し文):
夫の龍の蟲為る、柔なるときは狎れて騎る可きなり、然れども其の喉下に逆鱗径尺なる有り、若し人之に嬰るる者有らば、則ち必ず人を殺さむ。
読み:
かのりゅうのむしたる、じゅうなるときはなれてのるべきなり、しかれどもそのこうかにげきりんけいしゃくなるあり、もしひとこれにふるるものあらば、すなわちかならず人をころさん。
通釈:
あの竜という動物の性質は、飼いならせば、近よって跨ってもかまわないのだが、しかし竜の喉もと一尺ほどは鱗が逆さにうわっていて、もし人がそこに触ったなら、必ず取り殺される。
例文から、次の3点が確認できます。
- 送り仮名が「の」
- 名詞の前にある
- 訳が「あの」
したがって「かの」と読むことがわかります。
「夫」漢文での書き下し文は自立語を漢字で付属語をひらがなで書く
漢文では、読むだけでなく書き下し文を書く問題もあります。
「夫」を書き下し文にするとき、漢字のままのときとひらがなにするときがあり、どちらにすれば良いのか迷ってしまいますよね。
書き下し文では、自立語を漢字で付属語をひらがなで書きます。
つまり、自立語か付属語かを見分けることで、漢字にするのか、ひらがなにするのか、判断できます。
書き下し文とは漢字とかなを使い漢文を書き直した文
漢文には、白文、訓読分、書き下し文の3種類があります。
- 白文 漢字のみの文
- 訓読文 返り点や送り仮名がついている文
- 書き下し文 返り点の順番にしたがい、漢字とひらがなで書き直した文
漢文を日本人にも理解できるよう、漢字とひらがなを使いわかりやすく書き直した文が書き下し文です。
単語には自立語と付属語がある
文章を一番細かく区切ったものが単語です。
単語には、単独で意味がわかるものとわからないものがあります。
単独で意味がわかる単語は自立語で9種類ある
単独で意味がわかる単語を自立語といい、9種類あります。
- 名詞:物や人の名前などを表す
- 代名詞:「私」「彼」など名詞の代わりに使われる
- 動詞:人や物の動作を表す
- 形容詞:「かわいい」など物事の状態を表す
- 形容動詞:「静かな」など物事の状態を表し、語尾に変化がある
- 副詞:「とても」など物事の状態をくわしく表す
- 連体詞:「大きな」など名詞をくわしく表す。「この」「あの」など指示語は連体詞のひとつ
- 接続詞:「そして」など文と文をつなぐ
- 感動詞:「ああ」「もしもし」など感動や呼びかけ
単独では意味がわからない単語は付属語で2種類のみ
単独では意味がわからない単語を付属語といい、2種類しかありません。
- 助詞:「が」「を」など名詞の後につき意味を与える。文の終わりにくるものを終助詞という
- 助動詞:「られる」「です」など様々な言葉の後につき意味を与える
「夫れ」は自立語だから書き下し文では「夫れ」
「夫れ」は接続詞、つまり自立語です。
したがって、書き下し文では「夫れ」となります。
「夫」は付属語だから書き下し文では「かな」
「夫」は助詞の仲間である終助詞、つまり付属語です。
したがって、書き下し文では「か」または「かな」となります。
「夫の」は自立語だから書き下し文では「夫の」
「夫の」は連体詞、つまり自立語です。
したがって、書き下し文では「夫の」となります。
「夫」のほかに漢文で読み方が複数ある漢字5選
「夫」のほかにも読み方が複数ある漢字を知っておくと安心ですよね。
よく出題される、読み方が複数ある漢字の読み方と意味を5つご紹介します。
為「為に(ために)」「為す(なす)」「為(たり)」
為に「ために」:~のために
為る「つくる」:作る
為す「なす」:行う・思う・する
為る「なる」:~に成る
為む「をさむ」:治める・習う
為り「たり」:~だ
為「る」:~される
以「以て(もって)」「以ふ(おもふ)」「以(ゆゑ)」
以て「もって」:~を使って・~により
以ふ「おもふ」:思う
以ゑ「ゆゑ」:~だから
乎「乎(や・かな)」「乎(か)」「乎(こ)」
乎「や・かな」:~だなあ
乎「か」:~だろうか?・~だろうか、いやない
乎「(読まない)」:置き字
焉「焉んぞ(いずくんぞ)」「焉に(ここに)」「焉(これ)」
焉んぞ「いづくんぞ」:~だろうか?・~だろうか、いやない
焉に「ここに」:ここに・そこに
焉「これ」:ここ・それ
焉「(読まない)」:置き字
与「与ふ(あたふ)」「与す(くみす)」「与(か・かな)」
与ふ「あたふ」:与える
与す「くみス」:味方になる
与る「あづかる」:関係する・参加する
与に「ともに」:ともに・いっしょに
与りは「よりは」:~よりは~が良いという意味の~よりは
与「と」:~と、および
与「か・かな」:~だなあ
まとめ
「夫」という漢字の読み方は次の3通りでした。
- 「夫れ(それ)」
- 「夫(か・かな)」
- 「夫(かの)」
次の3点を確認することで、読み方が決まります。
- 送り仮名は何か
- 文のどこにあるか
- 意味は何か
書き下し文にするときは、自立語か付属語かを見分けることで、漢字にするのかひらがなにするのかを判断することができます。
読み方と書き下し文のポイントをおさえておけば、大抵の漢文をスムーズに読めるようになることでしょう。漢文が得意科目になる日も近いかもしれません。
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